NARRATOR:
エヴァ・ヘスは、工業用素材を実験的に現代彫刻に応用しました。この作品は、8枚のガーゼ素材でできた、≪不慮の出来事≫と言うタイトルのシリーズのために、試験的に作ったものです。ガーゼをラテックスで塗装した後にファイバーグラスに浸したものですが、最後の工程で修復がきかないほどもろくなってしまい、当館はそれにどう対処するかを検討しなければなりませんでした。
近代美術のアソシエイト・キュレーター、モリー・ドノヴァンです。
MOLLY DONOVAN:
ヘスはこの作品で、絵画と彫刻の従来の定義や垣根を取り払い、二つが合体し融合したものを作り出しています。
MOLLY DONOVAN:
彼女の作品は、物理的に不安定なものです。劣化する素材で作られた芸術作品には、理念的また学芸的に、どう対処するのがベストでしょうか?学芸員や修復師のチームが出した結論は、そのままにしておくということでした。作品に自然に寿命を全うさせるのです。アーティストがすでに他界しており、作り直してもらうことも、修復してもらうこともできないこの作品ではなおさらです。
NARRATOR:
ユダヤ系ドイツ人として生まれたアメリカ人の画家ヘスは、脳腫瘍により34歳の若さでこの世を去りました。
MOLLY DONOVAN:
私にとって《不慮の出来事のテストピース》は 、長く記憶に残る美しい作品であり、不幸にも若くして亡くなったヘスの人生を考えるとなおさらそう思えるのです。